賢くなるのではなく愚かさに気づく：【法話】小池陽人の随想録

賢くなるのではなく、愚かに気づく。仏教は「自分」にまつわるあらゆる執着を手放すことの大切さを説く教えであり、自分のことを信じると同時に、「自分のことを疑う」教えでもあるからです。

仏教では、自分には、我痴（自我を平等にみることのできない我への執着）、我見（常に己を善しとみる心）、我慢（他人を見下して傲慢になる）、我愛（自己愛を固定化させて利己的になる）という四つの根本煩悩、倶生(くしょう)の我執(がしゅう)が生まれながらにして具わっていると説きます。

そして、この四つのとらわれによって、人は思考や判断を誤り、悩みを作り続けてしまうのです。お釈迦様は、この自分の中にある煩悩を注意深く観ていくことで、自分の愚かさに気づくことの大切さを説かれています。

浄土真宗の僧侶である江田智昭さんが、ご著書「お寺の掲示板　諸法無我」の中で次のような話を紹介されていました。

浄土真宗を厚く信仰し、多くの詩を残された浅原才市さんが晩年、ある有名な画家に肖像画を描いてもらった時に、完成した作品を目にして「こんな立派な肖像画は私ではない」と言い放ち、続けて「頭に鬼のツノを描いてください。

人の心を突き刺し、他人を傷つけてしまう恐ろしいツノです。」とお願いされたそうです。

付け加えられたツノ付きの肖像画をみて、才市さんは大変満足げだったと伝えられています。

江田さんは、才市さんが仏教の教えに触れる中で、他者を平気で傷つける愚かで醜い姿が自分自身の本当の姿（本性）であること自覚したのでしょうと、解説されていました。

そして、江田さんはまとめとして次のように書かれています。

「教えに学び、深く味わうことによって賢くなるのではなく、心の内面の愚かさに気づくようになるというのが仏教の教えです。」

この江田さんの言葉は、お釈迦様が、仏道修行の一番の敵は、自分の中にある傲慢な心だとおっしゃったことに通じていると感じます。

そして、なぜ自分の愚かさに気づくことが大切かと言えば、それは、相手（他人）のことを害さない、傷つけないためなのです。

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