がんばれない日があっても、大丈夫

子どものころ、私たちは「アンパンマン」をただのヒーローアニメとして楽しんでいました。困っている人を助けるパンの顔をしたヒーロー。どこかの誰かが泣いていたら、飛んできて力を貸してくれる優しい存在。それは赤ちゃんや幼児の心にすっと届く、親しみやすい世界でした。

でも、私たちが大人になった今、改めてアンパンマンのテーマソングを聞いたり、その世界観を思い出したりすると、涙が出そうになるのはなぜでしょうか。何気ない言葉の一つ一つに、やなせたかしさんの深い想いが込められているからです。そしてそこには、生きづらさを抱えた現代の若者たちにこそ届けたい、優しさと強さと励ましが詰まっています。

「がんばれない日があっても、大丈夫。」

この言葉には、どれだけ多くの人が救われることでしょう。社会はときに厳しく、容赦がありません。努力して結果を出すこと、周りに合わせること、弱音を吐かないことが求められる場面ばかり。そんな日々のなかで、がんばれないときは誰にでもある。だけど、その「がんばれない自分」を許してもいいんだとやなせさんは言ってくれているのです。

やなせさんがアンパンマンを生み出したのは、決して順風満帆な人生の途中ではありませんでした。戦争、貧困、喪失。さまざまな体験を通して、「本当の正義とは何か」「本当に人を助けるとは何か」という問いに向き合い続けた末の結晶がアンパンマンだったのです。

アンパンマンは、強さの象徴ではありません。決して完璧な存在ではないのです。彼は敵にやられて顔がぐちゃぐちゃになれば、力を失います。空も飛べなくなります。でも、だからこそ新しい顔を届けてくれる仲間がいて、支えあって立ち直る姿が描かれるのです。その姿こそが、やなせさんの伝えたかった「人は弱くていい。でも、誰かと力を合わせれば立ち直れる」というメッセージなのだと感じます。

若い人たちが抱えているものは、想像以上に重いこともあります。将来への不安、人間関係の疲れ、自分への不信感。SNSではいつも誰かと比較され、頑張っている自分を演じなければならない空気がある。だけど、そんな中で「がんばれない日があっても、大丈夫」と言ってもらえたら、それだけで救われる心があるはずです。

がんばれないときには、がんばらなくてもいい。休んでいい。泣いてもいい。アンパンマンが、困っている人を助けるために「自分の顔をちぎって分け与える」という行動をとるのも、もしかしたら「強さ」の象徴というより、「自分を犠牲にしても人を思いやることの美しさ」を伝えたかったのかもしれません。でも、それがいつもできるわけじゃないし、自分自身が空腹で、倒れてしまうこともある。そんなときは、誰かに顔をつくってもらえばいい、力を借りればいい。やなせさんの描いたヒーローは、強さの押し付けではなく、支え合う優しさの物語だったのです。

「何のために生まれて、何をして生きるのか」
アンパンマンのテーマソングには、人生の核心を突くような問いが込められています。この問いに、やなせさんは一つの答えを持っていました。それは、「誰かを助けるために生まれてきたんだ」という答えです。でもそれは、常にヒーローでいなさい、ということではなく、「自分のできることで、ほんの少しでも人の役に立てたら、それが生きる意味になる」という、やさしい答えなのです。

がんばれない日、それは心が疲れている日。そんなとき、自分を責めるのではなく、そっと自分を抱きしめてあげることが必要です。そして周りにいる誰かの「大丈夫」のひと言が、その人を救うこともある。アンパンマンのように飛んでいかなくても、たった一言のやさしい言葉が人を元気にさせることもある。

やなせさんの言葉は、子どもたちに向けたものだったはずです。でも今、その言葉は大人になった私たちに、いや、社会の重圧に押しつぶされそうになっている若者たちに、静かに寄り添ってくれています。がんばれない日があっても、それでもいい。そんな日は、空を見上げて、ゆっくり呼吸をして、今日一日無事に生きていることをただ喜べばいいのです。

人生は、がんばる日だけで成り立っているわけではありません。何もできなかったように見える日も、確かに意味があるのです。アンパンマンだって、戦ってばかりではない。笑ったり、遊んだり、仲間と語り合ったり、そんな時間も大切にしています。それが人間らしさであり、生きるということなのです。

がんばれない日があっても、大丈夫。

この言葉をくれたやなせたかしさんに、心からありがとうと伝えたいです。
あなたの描いた世界が、今もたくさんの心を救っています。
そしてこれからも、誰かの心にそっと灯をともしてくれることでしょう。
どうか、これからも私たちに、優しく語りかけていてください。
本当に、ありがとうございます。

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Видео がんばれない日があっても、大丈夫 канала Tihiro Kurosawa