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中国初の月サンプルリターンミッション嫦娥5号を研究者が解説

今年の11月末に打ち上げが予定されている中国国家航天局の嫦娥5号について、現時点で公開されている学会発表や論文をもとに、研究者の視点で解説します。嫦娥5号によって回収される若い岩石試料は、月科学だけでなく、惑星科学全般に大きな影響を与えうる可能性を秘めています。

(目次)
0:00 中国初のサンプルリターン
0:24 嫦娥計画の工程
1:34 探査機の技術的概要
2:46 着陸地点の理学的検討
4:00 回収試料の科学的意義
4:56 惑星科学の重大イベント

(参考文献)
Qian, Y. Q., Xiao, L., Zhao, S. Y., Zhao, J. N., Huang, J., Flahaut, J., et al. (2018). Geology and scientific significance of the Rümker region in northern Oceanus Procellarum: China’s Chang’E-5 landing region. Journal of Geophysical Research: Planets, 123, 1407–1430.
https://doi.org/10.1029/2018JE005595

Wang, Q., & Xiao, L. (2017). China’s Lunar Exploration Programme. Paper presented at Lunar Exploration Analysis 2017, Lunar and Planetary Institute, The Woodlands.
https://www.hou.usra.edu/meetings/leag2017/pdf/5092.pdf

Dr. David R. Williams (2019) Future Chinese Lunar Missions.
https://nssdc.gsfc.nasa.gov/planetary/lunar/cnsa_moon_future.html

National Research Council (2007). The scientific context for exploration of the Moon. Washington DC: National Academies Press.
https://www.nap.edu/catalog/11954/the-scientific-context-for-exploration-of-the-moon

(映像素材)
中央電視台、新華社通信、中国空間技術研究院、中国国家航天局、NASA, Google Earth, SpaceEngine
https://youtu.be/NahRe9rqo1I
https://www.bilibili.com/video/av38038460/

(字幕全文)
今年の11月末に打ち上げが予定されている嫦娥5号は、
中国初のサンプルリターンミッションとなるだけでなく、
1976年に行われたソ連のルナ24号以来、
44年ぶりの月サンプルリターンミッションとなる見込みです。

現時点で公開されている学会発表や論文をもとに、
一研究者の視点で情報を整理したいと思います。

中国の月探査計画「嫦娥」シリーズは、
4つのフェーズを踏んで計画が進められています。

第一フェーズで月軌道への到達、
第二フェーズで月面への軟着陸とローバーの運用、
第三フェーズで月面からのサンプルリターン、
第四フェーズで無人探査基地の設置、
と段階的に目標を設定して着実にミッションが遂行されてきました。

今回紹介する嫦娥5号は第三フェーズであり、
嫦娥4号までに蓄積された技術に加えて、
さらに月面での試料採取、月面からの離陸、周回軌道上でのドッキング、
地球大気への再突入という、新たなプロセスが加わります。

技術的な課題の一つである帰還カプセルの地球大気への再突入に関しては、
2014年に行われた嫦娥5号T1によって技術実証が行われました。

このミッションの成功を受けて、
2017年には嫦娥5号が打上げられる予定でしたが、
打ち上げに使われる長征5号ロケットの発射実験が直前に失敗したため、
今年に延期されたという経緯があります。

長征5号は中国最大、世界でも3番目の軌道投入能力を持つ大型ロケットで、
直近では今年の7月に中国初の火星探査機
「天問1号」の打ち上げに成功しています。

嫦娥5号の探査機側の情報については、文献調査の結果、
技術的な情報はまだほとんど公開されておらず、
現時点で信頼に足る公的な情報源はあまりないことがわかりました。

しかし2018年に出版された惑星科学の専門誌 JGR Planetsの論文で、
わずかに記述されている箇所がありました。
それによると、嫦娥5号では月面で深さ2メートル以内の地下から、
最大2kgの試料を持ち帰ることを目標としています。

無人探査機による最後の月サンプルリターンミッションだった、
ルナ24号の回収試料が170gだったことと比較すると、
嫦娥5号の目標採取量はかなり多いことがわかります。

探査機全体としては4つのモジュールで構成されると報道されています。
着陸モジュールは二つに分かれており、
試料採取モジュールが上昇モジュールにサンプルを格納した後に、
上昇モジュールだけ離陸し、
上空で待機している周回機にドッキングします。
そして帰還モジュールにサンプルを受渡した後に、
帰還モジュールだけを分離して、最終的に地球に帰還すると見られます。

探査機の観測機器についての公式な情報もほとんどありませんが、
パノラマカメラ、地中レーダー、分光計を搭載することが、
報道されています。

このように探査機の工学的な情報はほとんど出ておりませんが、
一方で着陸地点周辺の理学的な検討は進んでおり、
ターゲットとすべき地質ユニットの選定や、
想定されるレゴリスの物性などに関して既に論文が出版されています。

嫦娥5号の着陸地点は、月の表側の 嵐の大洋 の北側にある、
リュムケル地域が選定されています。
この地域は、月の歴史の中では比較的最近まで、
火山活動が続いていたことが特徴です。

2018年のJGR Planetsの論文では、この地域の地質的解析が行われ、
既に公開されている かぐややLRO、
チャンドラヤーン1号の観測データを用いた着陸地点の優先順位付けが、
中国とフランス、米国、ドイツの研究チームによって発表されました。

それによるとリュムケル地域の西側はおよそ35億から34億年前の、
インブリウム代の地質ユニットが多いのに対して、
東側には20億年よりも若い、
エラトステネス代の地質ユニットが含まれることがわかりました。

こういった月の非常に若い地質ユニットは、
まだその場観測やサンプルリターンが行われておらず、
科学的価値が極めて高いことから、リュムケル地域の東側を、
嫦娥5号の着陸地点の最有力候補として、論文中では推薦しています。

実際に、2007年に出版された全米研究評議会の報告書でも、
こういった非常に若い月の海のサンプルリターンが、
将来月探査の最優先科学目標として挙げられていることからも、
嫦娥5号に対する科学界の期待の高さが伺えます。

また、嫦娥5号のサンプルリターンは月科学だけでなく、
太陽系の他の固体惑星の分野にも大きなインパクトを与えるはずです。
というのも、太陽系の固体天体、火星や金星、水星、小惑星などの、
地質年代の推定は全て 月のクレーター年代学に依存しています。

しかしこれまでアポロやルナ探査で採取された岩石は、
比較的古い時代のものが多かったため、
新しい年代の推定値にはどうしても大きな不定性がありました。

嫦娥5号によって採取される若い岩石の年代が測定されれば、
クレーター年代の推定精度を大幅に上げることができ、
月だけでなく、全ての固体惑星の年代推定が、
より精度良く行えることになります。

今年の年末にははやぶさ2の地球帰還によって、
世界で初めてC型小惑星からのサンプルリターンが行われますが、
嫦娥5号のサンプルリターンも惑星科学の一大イベントとなります。
今後も注目していきましょう。

それでは今回もご視聴頂き、ありがとうございました。
次回は、原始地球で起こった大事件、
大酸化イベントに関する最新研究をご紹介しようと考えております。
よかったらチャンネル登録して頂けると嬉しいです。
それではまた。

#惑星科学チャンネル #PlanetaryScienceChannel #行星科学频道

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13 сентября 2020 г. 11:33:01
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